動物を知り尽くした画家

あべ弘士が愛する動物たち


あべ 弘士

北海道旭川市在住。1972年(24歳)から25年間にわたり旭山動物園の飼育係として勤務。象、ライオン、ふくろう、ゴリラなどさまざまな動物を担当し、動物とどっぷりつきあう。その間、動物園の看板やポスターなども多く手がける。1994年に出版された『あらしのよるに』で講談社出版文化賞絵本賞、産経児童出版文化賞JR賞を受賞。1996年に旭山動物園を退職し、それ以後創作活動に専念。2011年NPO法人かわうそ倶楽部を設立、ギャラリープルプルを運営。http://kawauso-club.com

日本最北端の地にある旭山動物園。25年という歳月をこの動物園の飼育係として、生きる全てを動物に注ぎこんできたあべ弘士さん。動物に関する豊富な知識と深い愛情が生み出す「あべワールド」の展示です。

 

 あべ弘士さんは 「熱中の人」であり、「集中の人」である。旭山動物園の飼育係だった24歳から48歳までの25年間は、とにかく、夢中で動物と向き合い、その動きを凝視し、もう背中に「動物命」と書いてあるかのごとく、明けても暮れても動物のことを考えていたという。それくらい動物たちの魅力は、あべさんの心をわしづかみにした。

 その「集中・あべ弘士」を形づくった10歳の日のエピソードが面白い。当時あべさんは、自然の中に身を置いて、ぼんやり空をながめたりするのが、好きな少年だった。あるとき、かぼちゃ畑の大きな葉っぱの下に寝て、空や雲を眺めていると、何か視線を感じたという。いつもは捕まえたくて追い掛けても逃げられてばかりいるキリギリスがすぐそばで、自分を見ていたのだ。そのときにさとった「気配を消し、同化する」という感覚。あべさんは言う、「動物とつきあうのも同じこと。自分は人間ではあるけれど、人間ではなく、単なる生命体としての環境になってしまうことができたら、動物たちの声が聞こえてきて、彼らがどうしたいと思っているか、分かるんだよ」と。この10歳にして得た一つの「生きていく上での哲学」。大人になり、絵描きという表現者になり、そこでやっていることはこの哲学の検証作業なのだと。

 あべさんの代表作『あらしのよるに』は、狼ガブと山羊のメイとの間に生まれた友情物語。あべさんに「ガブとメイ」のような関係が実際に生物界であり得るのかと聞いてみた。「事実は小説よりも奇なりというように、人類がまだまだ知り得ない生物界のことはたくさんある。1億分の1、いや1千億分の1くらいの確率でこんな関係の狼と山羊がいるかもしれない」。あべさんは、自身がストーリーを書き、絵本を作るのも好きだが、『あらしのよるに』のように、他の人の話に絵をつけるのにも別の楽しみがあるという。動物の素人だからこそ書けることがあり、素人にやられた!と思う瞬間が悔しくもあり、楽しくもある。

 高原アートギャラリーで展開される「あべワールド」。集中して対峙すれば、動物の声を聞くことができるかもしれない。

(取材・文 片岡弘子)



作品はこちら