ギャッベを織る道具(カルキット)

ギャッベの織りの技は代々、母親から娘へと脈々と伝承されていく。織り機は地面に水平に置かれ、経たて糸は人がその上に立てるほど強く、上下に2本張られている。その2本をすくい上げてはパイル糸を結び付けていく。ギャッベの結びはトルコ結びである。
横に2段結び、締め糸を2本通す。結んだだけではパイル糸は締まらず、やわやわの状態。横に通した締め糸を、金属製のカルキットという名の櫛の歯状の打ち込み器で、しっかりと打ち込んでいく。カルキットの重さは2kgほどで、飾りで付いている小さな金属片が、「シャーン、シャーン」とリズミカルに力強く響く。
カシュガイ遊牧民では、このカルキットの響きが子どもたちの子守唄といわれている。
女性たちは、素早い手の動きでパイル糸を結んでいく。その動きは熟練度が増すほど、舞いのように優雅で速い。その糸を結ぶ間に行うカルキットの打ち込み具合は、女性によってかなり強さが違う。固く打ち込むほどギャッベは堅牢な絨毯になるが、それだけ、仕事は進まない。
織り手の女性がしっかり事を進めることが好きな性格か、それよりも早く織り上げて現金化したい気持ちが強いかなど、女性たちの思惑によって、ギャッベの打ち込み具合も違ってくるのかもしれない。
だが、もちろん、我々が選ぶときは打ち込みがしっかりしているものを選ぶことが大事。「しっかり打ち込まれたギャッベ」は、羊毛の量も多く、強固で絨毯として優れている。
熟練の織り手の女性を見ていると、一種のトランス状態で織りの世界に入っているように感じられる。単調な手順の繰り返しの中に、忍耐と集中力が必要とされる仕事だ。
カシュガイの人たちに流れるフリーダムな精神、束縛を嫌う遊牧民的気風がここで生きてくる。デザイン画をなぞるだけの織り手など存在するわけもなく、自分の想いをギャッベの中に巧みに織り込み、渡されたデザイン画以上の驚きのギャッベを織る。生産性の低い荒涼としたザクロスの大地にあってギャッベは別世界。カシュガイのごく普通の女性、「名もなき名人たち」が織り上げる美しさと華やぎがあふれている世界、それがギャッベの世界だ。
絨毯商の穏やかなハンドリングに、カシュガイの遊び心あるフリーダムの精神が共鳴して、世界で一枚し


『大地の絨毯 GABBEH』
カシュガイ遊牧民・
草木染め手織り絨毯
フォトグラファー向村春樹氏が20年にわたり現地を取材したギャッベの世界を紀行文として執筆された待望の新刊です
- 全192ページ オールカラー
- サイズ:19.5 X 25.4 cm
- 発行元:ART G PUBLISHING
向村春樹著
通常価格 ¥4,950
ギャラリー価格 ¥4,000
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