ギャッベとペルシャ絨毯の違い

イランにはデザイン的には完璧といえるペルシャ絨毯が存在する。ペルシャ絨毯は、街の中にある絨毯工房の中で、決められたデザイン画に沿って、精緻に結ばれ織られたものである。
それに比べ、ギャッベは自由奔放な世界観が特徴。織り手の大多数を占めるカシュガイ遊牧民が今なお、フリーダムの精神を持ち続けて生きているという民族的特徴が根底にある。彼女らは、イラン人の絨毯商からデザイン画は渡されるが、誰一人としてその通りには織らない。デザイン画は 「オファーされる仕事の方向性を示すもの」くらいにしか、捉えていないのではないかと感じる。その結果、織り手の個性が反映された一枚のオリジナルなギャッベが誕生するのである。
絨毯商がいう「緩やかなハンドリング」と「カシュガイのフリーダムの精神」が共鳴し合うのが大地の絨毯である。
一枚の上質なギャッベが誕生する過程では、たくさんの人たちの「手仕事」が加わる。イラン北西部クルデスタン地方で絨毯用として世界一といわれる羊を飼育するクルド系遊牧民の人々、それを手紡ぎで糸にする人、こだわりのある染色職人、伝統文様を現代に蘇らせる絨毯デザイナー、そして卓越した技をもつ織り手、さらに織り上がったギャッベを何度も丁寧に洗い、乾かし、刈り込み、仕上げをする職人たち。
実に多くの人たちの誠実な手仕事の集大成として、一枚のギャッベに魂が吹き込まれ、輝きを増していく。
ギャッベはカシュガイ女性の心の鏡。煌めくような感性をもった女性が織ったギャッベは、私の心を一瞬にして鷲摑みにして離さない。
ギャッベは織り手のカシュガイ女性の日記帳とも現地ではいわれている。ギャッベに織られる文様にはそれぞれの意味合いがあるが、それが集まりパッチワークデザインとなったときには、より深い物語が紡がれている。
織り手一人ひとりが歩んできた人生、喜び、希望、悲しみ、そんな思いを綾のように組み合わせてギャッベの中に記憶させ、織り上げているのがギャッベである。それを使う人は、一枚のギャッベの中に、自分の人生と重ね合わせて、楽しいことや記憶に留めておきたいことなどを見つけ出す喜びが生まれる。
ギャッベが一過性のブームに終わらず、魅力を発信し続けているのは、織り手の想いを読み解いていく楽しみがあるからではないかと感じている。


『大地の絨毯 GABBEH』
カシュガイ遊牧民・
草木染め手織り絨毯
フォトグラファー向村春樹氏が20年にわたり現地を取材したギャッベの世界を紀行文として執筆された待望の新刊です
- 全192ページ オールカラー
- サイズ:19.5 X 25.4 cm
- 発行元:ART G PUBLISHING
向村春樹著
通常価格 ¥4,950
ギャラリー価格 ¥4,000
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