草⽊染め、 100年の時を刻む⽯⾅から始まる染⾊

2016年3月、テヘラン郊外の山の手にあったファーハディアンのショールームを訪ねた時の驚きは大きかった。ギャッベ特有の羊臭と無駄毛の埃が見当たらない。遊牧民は大地と触れ合って生きている、そのギャッベを扱う倉庫でも無駄毛が舞い、汚れているのは仕方の無いことと、これまで思っていた。しかし、ファーハディアンはその常識を打ち砕き、非常に整理が行き届き、清潔感にあふれていた。ギャッベという商品に対する愛情がそこにはあった。私は一歩足を踏み入れた瞬間にこの絨毯商は信用できると直感した。
我々の本職は編集者であり、カメラマン。長年の職業意識から直感的に本物を見抜く訓練はなされていると自負している。まず、商品を集める倉庫が清潔に保たれているか、働いている人が生き生きとしているか、経営者の目が隅々まで行き渡っているか、そして、どのような価値観を持っている経営者が存在するのか……。
私たちは、感覚を敏感にして、情報収集していく。反対に私たちがファーハディアンのギャッベを扱う適任者かを判断してもらう必要もある。フィフティーフィフティーの勝負。その勝負を経て、信頼と信用の新しいギャッベパートナーシップが結ばれた。

2001年に取材を始めてから既に20年。長い取材経験から、ギャッベはその織り手であるカシュガイ遊牧民の女性だけでは魅力的なものは誕生しないのだと確信するに至った。
商業的に生産されたギャッベは、市場で売れなければ生き残りはできない。確かに遊牧民の女性が自分自身のために織り上げたギャッベには時にアッと驚かされ、心騒ぐ素晴らしいものがあるが、20年、カシュガイ遊牧民の元に深く入り込んでいる私でさえ何年に一度、そういうオリジナリティあふれるものに出会えるかどうかというくらいだ。
私たちは物の良し悪しを総合的に観察し、判断している。例えば、絵柄は魅力的でも、羊毛の質が劣っていたり、化学染料の派手な色合いにたじろぐギャッベもある。原野で暮らす人たちと都市で暮らす私たちとの価値観の違いがここに出る。 織り手と求めたい人の中間点に絨毯商が介在して、双方の意向を読み取り、ギャッベに取り入れて制作を盛んにする。織り手には経済的な収入をもたらし、ギャッベフアンには生活に彩りと心の豊かさを与えてきたと考えている。この絨毯商の存在が「魅力的なギャッベ」存続の決め手なのである。
繰り返しになるが、遊牧民女性と絨毯商のコラボレーションから魅力的なギャッベは誕生する。
「カシュガイ」「カムセ連合」の織り手たちの素晴らしい織りの技と、その才能を引き出し、他に類を見ないオリジナルギャッベ絨毯へと導いていくのは絨毯商の才覚にかかっている。絨毯商が、どの様な経営哲学を持ち、将来に夢を描けるビジョンを有しているかが、伝統的な織りを維持するだけではなく、育てて発展させていくことにつながる。絨毯商は織り手の生活を保障する一方で、自社の利益も上げていかねばならない。共存共栄の考えに私たちが運営するギャラリーの理念、作品を売るだけでなく作家を育てていく使命と一致する。

『大地の絨毯 GABBEH』
カシュガイ遊牧民・
草木染め手織り絨毯

フォトグラファー向村春樹氏が20年にわたり現地を取材したギャッベの世界を紀行文として執筆された待望の新刊です

  • 全192ページ オールカラー
  • サイズ:19.5 X 25.4 cm
  • 発行元:ART G PUBLISHING

向村春樹著

通常価格 ¥4,950

ギャラリー価格 4,000 

購入はこちら